洗練された素朴さ
製作者の福井守は"Design office A4"の立ち上げメンバーとして活躍してきました。コクヨやベネッセといった大手企業から中小さまざまな会社のデザインに携わり、同時に全国各地でワークショップを開催するなど、幅広い活躍で知られていました。そんな彼が、アパレルデザイナーの奥様と共に山奥の静かなアトリエに拠点を移したのが2013年。今では完全に独立して木工製作を行っています。彼が作るオブジェには、 素材が持つ"素朴さ"と"洗練されたフォルム"が同居しています。これまでのデザインで培った確かな美意識と、フォルムに対する見識。それらが独創的な美しさをもつ1点もののオブジェを生み出しています。
日常を豊かにするモノ
彼は、気に入った木を集め、木目を読み、自分の手が削りたいように、気持ち良いカタチを削り出すのだと言います。もちろん全てが一点モノ。『同じ木を一日中でも磨いていられるし、その過程も楽しいんです。』と、言い切る彼の姿がとても印象的でした。
木の入手経路もさまざま。散歩中に川で拾った流木もあれば、材木屋さんで見つけた美しい木材も、林業関係者に探してもらう希少な部位も含まれます。そんな自由な製作スタイルですが、彼は自分のことをアーティストではないと断言します。『スプーンでもオブジェでも良いんです。あくまで日常の中にあって、その場所を豊かにしてくれるようなモノを作りたかったんです。』と話す彼の姿勢に、このオブジェの本質が垣間見えた気がしました。
No.021 ケヤキ
このオブジェに使われている木材は兵庫県の笹山で伐採されたケヤキの木です。ケヤキは木目が美しく、とても堅い木材です。日本では昔から漆器や家具、建具などに使われてきましたが近年では価格が高騰し、一般に使われることは少なくなっています。このオブジェでは、そんなケヤキの中でも特に個性的で変化に富んだ部分が使われています。光沢のある滑らかなフォルムの中に、複雑な木目、節、虫食いが内包された、とても魅力的な仕上がりです。サイズは初期の作品と比べてかなり大きめで、そのぶん強い存在感が感じられます。
ベースの材質は鉄です。鉄工所の廃材に錆び加工を施したあと高温で焼いて黒錆化し、蜜蝋で仕上げています。底部には柔らかい滑り止めがついていますので、場所を選ばず使用できます。